円周率を求める方法は無数にあります。
多角形で挟んで範囲を狭める古典的な方法は中学校とかで聞いたかもしれません。ラマヌジャンとかいうインド人が立てた狂気の式の中にも円周率を計算するものがありますが、円周率あたりは沼なので深く立ち入らないことにします。調べればいくらでも謎の級数による導出があるので、それらの難しい話は偉大なGoogle先生に任せ、この記事では頭ではなく手を動かして円周率を求めていきます。前提知識は小学校の算数程度、使う道具は鉛筆、定規、コンパスとすごく大きな紙です。
そもそも円周率とはなんなのか
まずは円周率が何かを確認しておきます。
円周率とは円の周長と直径の比です。
なので、何も難しいことを考えなくても、これら2つの長さがわかれば良いのです。この記事で紹介する方法もこれら2つの長さを測定して円周率を求めていきます。
測定可能なモデルを作る
最も正確な方法は真円の直径と円周長を測ることですが、真円の円周長を測ることは非常に難しいです。それができたら苦労はしません。真の値を知るのは無理なので、近似値を求めます。
何で円を近似しようか……と考えると、やはり多角形がまっさきに思いつきました。素直にこれを使います。
さて、古典的な多角形による円周率の近似の難しさは、図形の精密さに尽きると思います。コンパスで描いた円に対して多角形の角を増やせば、どんどん辺は短くなり、ある段階で一定水準以上の精度の測定が不可能になるからです。
ここで、円周率の定義を思い出してください。円周率とは円の周長と直径の比です。2つの値の比なので、円周率を測定する方法としては、既知の直径に対して周長を測定するというのと、既知の周長に対して直径を測定するという2つのアプローチがあります。上の方法は前者を採用した結果精度の問題で詰んでいるので、今回は後者を採用します。
そうすると何が良いかというと、辺を短くしなくて済むのです。ですがこれはトレードオフになっていて、今度は多角形の構成が難しくなります。
やることは長さ既知の辺によってなるべく正確に正多角形を作り、なるべく正確にその直径に相当する対角線の長さを測定するというシンプルなものですが、ここで2つの問題が生じます。
1つ目は、正多角形をどうやって正確に構成するか、つまり隣り合う辺の成す角の精度をどう保証するかです。これはコンパスによる角の2等分線の作図によって解決します。しかも、角の2等分線の作図において基準となる長さを十分大きくすれば、コンパスの操作による誤差や引かれた線の太さによる誤差も小さくすることができます。
ただしこの解決法によって作図できる正多角形が正2n角形に限定されますが、関心は円周率にあるので、別に問題にはなりません。
2つ目は、直径の測定による誤差です。1つ目の問題の解決法によって正2n角形を利用することになったので、直径相当の対角線は容易に特定できますが、その長さの測定には古典的な方法と同様に精度の限界が存在します。どうすれば良いでしょうか?
実は、今回はそもそもこれが問題になっていないのです。角を増やせばそれだけ直径も大きくなりますが、定規による測定誤差の大きさは変わらないので、正2n角形が円に近づくほど測定誤差を無視できるようになるのです。素晴らしいですね。
この方法の妥当性
前述の方法で円周率を近似できそうだというのは直感的にはわかりますが、一応証明しておきます。ここだけ高校数学レベルですが結果的には正しいので飛ばしても良いです。
証明
1辺が2の正n角形をとする。を角を底角としてn分割した図形を考えると、それは底辺の長さが2で頂角の大きさがの二等辺三角形である。底辺ではない辺の長さをとすると、
なので
となる。よって
手を動かそう
さてこれで準備は整いました。以下の手順で円周率を求めていきます。
1. 1辺の長さが2cmの正8角形を作図する
2. 角の2等分線の作図によって正8角形と1つの辺を共有する正16角形を作図する
3. 2の手順を繰り返すことで正2n角形を作図する
4. 正n角形の対角線の長さを測る
5. 周長(=2n)を対角線の長さで割る
6. 円周率の近似値!嬉しい!!!
実際にやってみた
以下のようになりました。
n=8のとき:
n=16のとき:
n=32のとき:
n=64のとき:
かなり面倒だった割には、この程度の近似ではあまり良い精度では得られませんでした。しかし特別な道具、精密な作業、難しい考え方なしに近似値を求められることに嬉しさを感じました。