ぺるせんたげの学習帳

手作り数学のブログです

Midyの定理とGinsbergによる拡張とpercentageによる別証明

「散歩してたらこんなの見つけたんだけど」

東洋医学の講義の時間に同級生から教えてもらった問題にまつわる話です。



1. 神社の算学

三重県桑名市にある桑名宗社(春日神社)には以下のような算学があるそうです。

f:id:percentage011:20210131193648j:plain
桑名宗社ホームページより http://www.kuwanasousha.org/archives/1934

講義中に教えてもらったのは1番(循環小数に関する分割和)です。以下に再掲します。

\frac{1}{7}=0.\dot{1}4285\dot{7}
循環小数で、循環する数字「142857」を循環節という。循環節142857の数字を2分割、3分割して加えると次のように9が並ぶ数になります。
142+857=999, 14+28+57=99
一般にp素数とするとき\frac{1}{p}の循環節についても、2分割、3分割して加えると999\cdots9のように9が並ぶ数になります。

へえ~面白いな~。
ということで、とりあえず9が並ぶことを証明していきましょう。

2. 証明

p=2,5のとき循環しないのでp\neq2,5とする。

2分割の場合

循環節をM、その桁数を2mMの上半分をU_2(M)、下半分をL_2(M)とする。このとき\frac{10^{2m}}{p}-\frac{1}{p}=MなのでpM=10^{2m}-1となる。また、M=10^{m}U_2(M)+L_2(M)である。
循環節の上半分と下半分を足したものがほしいので、桁をずらしてMを足すと、
(10^{2m}+10^{m}+1)M=(10^{2m}+10^{m}+1)\{10^{m}U_2(M)+L_2(M)\}
=10^{3m}U_2(M)+10^{2m}\{U_2(M)+L_2(M)\}+10^{m}\{U_2(M)+L_2(M)\}+L_2(M)
=10^{m}(10^{m}+1)\{U_2(M)+L_2(M)\}+10^{3m}U_2(M)+L_2(M)
ここで、
10^{3m}U_2(M)+L_2(M)=10^{2m}\cdot10^{m}U_2(M)+L_2(M)+10^{2m}L_2(M)-10^{2m}L_2(M)
=10^{2m}\{10^{m}U_2(M)+L_2(M)\}-(10^{2m}-1)L_2(M)
=10^{2m}M-pML_2(M)なので、
(10^{2m}+10^{m}+1)M=10^{m}(10^{m}+1)\{U_2(M)+L_2(M)\}+10^{2m}M-pML_2(M)
\Leftrightarrow10^{m}(10^{m}+1)\{U_2(M)+L_2(M)\}=\{10^{2m}+10^{m}+1-10^{2m}+pL_2(M)\}M=\{10^{m}+1+pL_2(M)\}M
\Leftrightarrow(10^{m}+1)\{U_2(M)+L_2(M)\}=\{1+\frac{1+pL_2(M)}{10^{m}}\}Mとなる。
この中で
1+\frac{1+pL_2(M)}{10^{m}}-p=10^{-m}[10^{m}+1-\{10^{m}-L_2(M)\}p]
=10^{-m}[10^{m}+1-\{10^{m}-(M-10^{m}U_2(M))\}p]
=10^{-m}\{10^{m}+1-10^{m}p+(10^{2m}-1)-10^{m}pU_2(M)\}
=1-p+10^{m}-pU_2(M)
=(1+10^{m})-\{1+U_2(M)\}p
なので、1+10^{m}-\{1+U_2(M)\}p=cとおくと、
pU_2(M)=1+10^{m}-p-c
\Leftrightarrow U_2(M)=\frac{10^{m}+1}{p}-(1+\frac{c}{p})=\frac{(10^{m}+1)M}{pM}-(1+\frac{c}{p})
=\frac{10^{m}+1}{10^{2m}-1}M-(1+\frac{c}{p})=\frac{M}{10^{m}-1}-(1+\frac{c}{p})
\Leftrightarrow(10^{m}-1)U_2(M)=M-(10^{m}-1)(1+\frac{c}{p})=10^{m}U_2(M)+L_2(M)-(10^{m}-1)(1+\frac{c}{p})
\Leftrightarrow U_2(M)+L_2(M)=(10^{m}-1)(1+\frac{c}{p})
このとき左辺は整数なので、10^{m}-1cの少なくとも一方はpの倍数である。もし10^{m}-1pの倍数であれば10^{m}-1=pH (Hは整数)と書くことができ、M=\frac{10^{2m}-1}{p}=\frac{1}{p}(10^{m}-1)(10^{m}+1)=H(10^{m}+1)となるが、M2m桁なのでHm桁の整数であり、その場合は\frac{1}{p}の循環節がm桁ということになり矛盾する。よってcpの倍数である。
U_2(M)\frac{1}{p}の最初の小数点以下m桁なので、U_2(M)10^{-m}pU_2(M)\leq1を満たす最大の整数である。このとき明らかに10^{-m}\{1+U_2(M)\}p>1 \Leftrightarrow \{1+U_2(M)\}p>10^{m}なので、c=1+10^{m}-\{1+U_2(M)\}p\lt1となる。
またU_2(M)+L_2(M)>0, 10^{m}-1>0なので1+\frac{c}{p}>0 \Leftrightarrow c>-pである。cpの倍数だったので、以上の条件からc=0
これにより1+10^{m}-\{1+U_2(M)\}p=0, 1+\frac{1+pL_2(M)}{10^{m}}-p=0なので1+\frac{1+pL_2(M)}{10^{m}}=p
よって(10^{m}+1)\{U_2(M)+L_2(M)\}=pM=10^{2m}-1 \Leftrightarrow U_2(M)+L_2(M)=10^{m}-1である。

3分割の場合

基本的な考え方は2分割のときと同じですが、もともと技巧的だった式変形が更に複雑になります。

循環節をM、その桁数を3mMの上3分の1U_3(M)、真ん中3分の1I_3(M)、下3分の1L_3(M)とする。このとき\frac{10^{3m}}{p}-\frac{1}{p}=MなのでpM=10^{3m}-1となる。また、M=10^{2m}U_3(M)+10^{m}I_3(M)+L_2(M)である。
循環節の上3分の1と真ん中3分の1と下3分の1を足したものがほしいので、桁をずらしてMを足すと、
(10^{4m}+10^{3m}+10^{2m}+10^{m}+1)M=10^{6m}U_3(M)+10^{5m}\{U_3(M)+I_3(M)\}
+10^{4m}\{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}+10^{3m}\{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}
+10^{2m}\{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}+10^{m}\{I_3(M)+L_3(M)\}+L_3(M)
=10^{2m}(10^{2m}+10^{m}+1)\{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}
+10^{6m}U_3(M)+10^{5m}\{U_3(M)+I_3(M)\}+10^{m}\{I_3(M)+L_3(M)\}+L_3(M)
ここで、
10^{6m}U_3(M)+10^{5m}\{U_3(M)+I_3(M)\}+10^{m}\{I_3(M)+L_3(M)\}+L_3(M)
=10^{4m}\{10^{2m}U_3(M)+10^{m}I_3(M)\}+10^{5m}U_3(M)+\{10^{m}I_3(M)+L_3(M)\}+10^{m}L_3(M)
=10^{4m}\{M-L_3(M)\}+10^{5m}U_3(M)+\{M-10^{2m}U_3(M)\}+10^{m}L_3(M)
=(10^{4m}+1)M+(10^{4m}-10^{m})\{10^{m}U_3(M)-L_3(M)\}
=(10^{4m}+1)M+10^{m}pM\{10^{m}U_3(M)-L_3(M)\}
なので、
(10^{4m}+10^{3m}+10^{2m}+10^{m}+1)M
=10^{2m}(10^{2m}+10^{m}+1)\{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}+(10^{4m}+1)M+10^{m}pM\{10^{m}U_3(M)-L_3(M)\}
\Leftrightarrow 10^{2m}(10^{2m}+10^{m}+1)\{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}
=[10^{4m}+10^{3m}+10^{2m}+10^{m}+1-(10^{4m}+1)-10^{m}p\{10^{m}I_3(M)-L_3(M)\}]M
=10^{m}[10^{2m}+10^{m}+1-p\{10^{m}U_3(M)-L_3(M)\}]M
\Leftrightarrow(10^{2m}+10^{m}+1)\{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}=\{10^{m}+1+10^{-m}-pU_3(M)+10^{-m}pL_3(M)\}M
この中で、
10^{m}+1+10^{-m}-pU_3(M)+10^{-m}pL_3(M)-p=c
とすると、
\frac{10^{3m}-1}{10^{m}(10^{m}-1)}-p\{U_3(M)-10^{-m}L_3(M)+1\}=c
\Leftrightarrow pM-10^{m}(10^{m}-1)p\{U_3(M)-10^{-m}L_3(M)+1\}=10^{m}(10^{m}-1)c
\Leftrightarrow 10^{2m}U_3(M)+10^{m}I_3(M)+L_3(M)-10^{m}(10^{m}-1)\{U_3(M)-10^{-m}L_3(M)+1\}=10^{m}(10^{m}-1)\frac{c}{p}
\Leftrightarrow \{10^{2m}-10^{m}(10^{m}-1)\}U_3(M)+10^{m}I_3(M)+\{1+10^{m}(10^{m}-1)10^{-m}\}L_3(M)=10^{m}(10^{m}-1)(1+\frac{c}{p})
\Leftrightarrow \{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}=(10^{m}-1)(1+\frac{c}{p})
このとき左辺は整数なので、10^{m}-1cの少なくとも一方はpの倍数である。もし10^{m}-1pの倍数であれば10^{m}-1=pT (Tは整数)と書くことができ、M=\frac{10^{3m}-1}{p}=\frac{1}{p}(10^{m}-1)(10^{2m}+10^{m}+1)=T(10^{2m}+10^{m}+1)となるが、M3m桁なのでTm桁の整数であり、その場合は\frac{1}{p}の循環節がm桁ということになり矛盾する。よってcpの倍数である。
c=10^{m}+1+10^{-m}-p\{U_3(M)-10^{-m}L_3(M)+1\}
=10^{m}+1-p+10^{-m}\{1+pL_3(M)\}-pU_3(M)
\Leftrightarrow pU_3(M)=10^{m}+1-p+10^{-m}\{1+pL_3(M)\}-c
で、U_3(M)\frac{1}{p}の最初の小数点以下m桁なので、U_3(M)10^{-m}pU_3(M)\leq1 \Leftrightarrow pU_3(M)\leq10^{m}を満たす最大の整数である。このとき明らかに\{1+U_3(M)\}p>10^{m}なのでpU_3(M)> 10^{m}-pである。
よって
10^{m}-p \lt pU_3(M) \leq 10^{m}
\Leftrightarrow 10^{m}-p \lt 10^{m}+1-p+10^{-m}\{1+pL_3(M)\}-c \leq 10^{m}
\Leftrightarrow 1-p+10^{-m}\{1+pL_3(M)\} \leq c \lt 1+10^{-m}\{1+pL_3(M)\}で、
1-p+10^{-m}\{1+pL_3(M)\}> -pなので-p \lt cである。
また、pM=10^{3m}-1 \Leftrightarrow 10^{-3m}=1-10^{-3m}pM=1-p\{10^{-m}U_3(M)+10^{-2m}I_3(M)+10^{-3m}L_3(M)\}
\Leftrightarrow 10^{-3m}\{1+pL_3(M)\}=1-p\{10^{-m}U_3(M)+10^{-2m}I_3(M)\}で、
10^{m}U_3(M)+I_3(M)\frac{1}{p}の最初の小数点以下2m桁なので、10^{m}U_3(M)+I_3(M)p\{10^{-m}U_3(M)+10^{-2m}I_3(M)\} \leq1 \Leftrightarrow p\{10^{m}U_3(M)+I_3(M)\} \leq 10^{2m}を満たす最大の整数である。このとき明らかにp\{10^{m}U_3(M)+I_3(M)+1\}>10^{2m}で、左辺は整数なので、
p\{10^{m}U_3(M)+I_3(M)+1\} \geq 10^{2m}+1 \Leftrightarrow p\{10^{m}U_3(M)+I_3(M)\} \geq 10^{2m}+1-p
\Leftrightarrow \{10^{-m}U_3(M)+10^{-2m}I_3(M)\} \geq 1-10^{-2m}(p-1)
\Leftrightarrow 1-\{10^{-m}U_3(M)+10^{-2m}I_3(M)\} \leq 10^{-2m}(p-1)であり、
10^{-3m}\{1+pL_3(M)\}=1-\{10^{-m}U_3(M)+10^{-2m}I_3(M)\} \leq 10^{-2m}(p-1)
\Leftrightarrow 10^{-m}\{1+pL_3(M)\}=p-1なので、
c \lt 1+10^{-m}\{1+pL_3(M)\} \leq 1+(p-1)=p \Leftrightarrow c \lt pである。
cpの倍数であったので、以上の条件からc=0となる。
よって10^{m}+1+10^{-m}-pU_3(M)+10^{-m}pL_3(M)=p
\Leftrightarrow (10^{2m}+10^{m}+1)\{U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)\}=pM=10^{3m}-1
\Leftrightarrow U_3(M)+I_3(M)+L_3(M)=10^{m}-1である。

(証明終わり)


だいぶややこしい計算をしましたが、「循環節の各部分を足したものを作りたい」という簡単な発想を不自然な演算を定義せず自然な代数処理で実現し、小数の持つ自明な制限(小数展開の有限部分と割る数の積が1を超えないこと)を適宜使うことで、知識としては小学校の算数レベルで解決することができました。
イデアが泥臭すぎた代償(?)として、非常にテクニカルな計算ルートをたどることになりました。上の証明ではあたかも最初からその道が見えていたかのように書かれていますが、実際には証明に4日かかっています……4日ならだいぶ早い方ですけどね。

3. 証明の新規性?

ところで、2分割したものを足して9が並ぶという性質はMidyの定理(Midy 1836)と呼ばれ、また3分割についてはGinsbergの論文(Ginsberg 2004)[1]で証明されたらしいです[2]。



!?!?



なんと、21世紀に証明されたばかりの定理を僕も証明できてしまったらしいです。しかもGinsberg 2004を見てみると、上の証明とは違う(とてもスマートな)やり方でした。

もしかしたら新規性のある別証明を作れているのかもしれないと思うとワクワクしますね。

A. 参考

[1] B. D. Ginsberg 2004, Midy’s (Nearly) Secret Theorem — An Extension After 165 Years, College Mathematics Journal, 35 (2004), 26-30.
[2] 循環小数の一性質 -Midy の定理とその一般化-/富山大学理学部 https://www.sci.u-toyama.ac.jp/topics/topics16.html