「散歩してたらこんなの見つけたんだけど」
東洋医学の講義の時間に同級生から教えてもらった問題にまつわる話です。
1. 神社の算学
三重県桑名市にある桑名宗社(春日神社)には以下のような算学があるそうです。
講義中に教えてもらったのは1番(循環小数に関する分割和)です。以下に再掲します。
は循環小数で、循環する数字「」を循環節という。循環節の数字を分割、分割して加えると次のようにが並ぶ数になります。
一般にを素数とするときの循環節についても、分割、分割して加えるとのようにが並ぶ数になります。
へえ~面白いな~。
ということで、とりあえずが並ぶことを証明していきましょう。
2. 証明
のとき循環しないのでとする。
2分割の場合
循環節を、その桁数を、の上半分を、下半分をとする。このときなのでとなる。また、である。
循環節の上半分と下半分を足したものがほしいので、桁をずらしてを足すと、
ここで、
なので、
となる。
この中で
なので、とおくと、
このとき左辺は整数なので、との少なくとも一方はの倍数である。もしがの倍数であればは整数と書くことができ、となるが、は桁なのでは桁の整数であり、その場合はの循環節が桁ということになり矛盾する。よってがの倍数である。
はの最初の小数点以下桁なので、はを満たす最大の整数である。このとき明らかになので、となる。
またなのでである。はの倍数だったので、以上の条件から。
これによりなので。
よってである。
3分割の場合
基本的な考え方は分割のときと同じですが、もともと技巧的だった式変形が更に複雑になります。
循環節を、その桁数を、の上分のを、真ん中分のを、下分のをとする。このときなのでとなる。また、である。
循環節の上分のと真ん中分のと下分のを足したものがほしいので、桁をずらしてを足すと、
ここで、
なので、
この中で、
とすると、
このとき左辺は整数なので、との少なくとも一方はの倍数である。もしがの倍数であればは整数と書くことができ、となるが、は桁なのでは桁の整数であり、その場合はの循環節が桁ということになり矛盾する。よってがの倍数である。
で、はの最初の小数点以下桁なので、はを満たす最大の整数である。このとき明らかになのでである。
よって
で、
なのでである。
また、
で、
はの最初の小数点以下桁なので、はを満たす最大の整数である。このとき明らかにで、左辺は整数なので、
であり、
なので、
である。
はの倍数であったので、以上の条件からとなる。
よって
である。
だいぶややこしい計算をしましたが、「循環節の各部分を足したものを作りたい」という簡単な発想を不自然な演算を定義せず自然な代数処理で実現し、小数の持つ自明な制限(小数展開の有限部分と割る数の積が1を超えないこと)を適宜使うことで、知識としては小学校の算数レベルで解決することができました。
アイデアが泥臭すぎた代償(?)として、非常にテクニカルな計算ルートをたどることになりました。上の証明ではあたかも最初からその道が見えていたかのように書かれていますが、実際には証明に4日かかっています……4日ならだいぶ早い方ですけどね。
3. 証明の新規性?
ところで、分割したものを足してが並ぶという性質はMidyの定理(Midy 1836)と呼ばれ、また分割についてはGinsbergの論文(Ginsberg 2004)[1]で証明されたらしいです[2]。
!?!?
なんと、21世紀に証明されたばかりの定理を僕も証明できてしまったらしいです。しかもGinsberg 2004を見てみると、上の証明とは違う(とてもスマートな)やり方でした。
もしかしたら新規性のある別証明を作れているのかもしれないと思うとワクワクしますね。
A. 参考
[1] B. D. Ginsberg 2004, Midy’s (Nearly) Secret Theorem — An Extension After 165 Years, College Mathematics Journal, 35 (2004), 26-30.
[2] 循環小数の一性質 -Midy の定理とその一般化-/富山大学理学部 https://www.sci.u-toyama.ac.jp/topics/topics16.html