ぺるせんたげの学習帳

手作り数学のブログです

斜辺を共有するピタゴラス数たち

ピタゴラスの定理というものがあります。
これは直角三角形の辺の長さの関係についての定理で、具体的には次のような主張です。

ピタゴラスの定理 直角三角形について、abを直角を挟む2辺の長さ、cを斜辺の長さとすると、
a^2+b^2=c^2


非常にシンプルです。

直角三角形なら3辺の長さの比が常に上の関係式を満たすというのは自明ではなく、これまでプロアマ問わずたくさんの人がこの定理を調べてきました。
この関係式は全ての辺の長さが整数であるような直角三角形というとても特殊な図形の議論で登場することが多く、特にピタゴラスの定理を満たす3つの整数の組はピタゴラスと呼ばれ、整数の話題として有名です。
この記事ではピタゴラス数について、斜辺に注目して調べた結果を書いていきます。
以下、ピタゴラス数はピタゴラスの定理を満たす3つの自然数の組とし、原則a,b,cの関係は上の通りとします。

注:著者は数学に対して厳密性を求め(られ)ない人なので、穏やかな気持ちで読んでください。



1. ピタゴラス数の諸性質

ピタゴラス数は自然数の2乗に関する定理なので、まずは自然数の2乗を観察してみます。

 1^2=1,  2^2=4,  3^2=9,  4^2=16,  5^2=25,  6^2=36,  7^2=49, \dots


ふむ、よくわからんですね。
よくわからないので適切な"眼鏡"をかけてみます。

 1^2≡1,  2^2≡0,  3^2≡1,  4^2≡0,  5^2≡1,  6^2≡0,  7^2≡1, \dots mod 4


規則性が表れました。4で割ったあまりを考えると、奇数の2乗は1、偶数の2乗は0になることがわかります(これは非常に簡単に示せます)。

さて、最初の定理において、abがともに奇数だったらどうなるでしょうか。
a^ 2≡1, b^ 2≡1なので、a^ 2+b^ 2≡2です。
ところで、a^ 2+b^ 2=c^ 2なので、当然c^ 2≡2となります。
しかしc^ 2も上の規則を満たすはずなので、c^ 2≡0 or 1でなければいけません。
矛盾しました。つまりabは同時に奇数になってはいけないのです。
このことから次の事実を得ます(確認してみてください)。

ピタゴラス数のうち斜辺以外の2辺の長さは
「奇数と偶数」か「偶数と偶数」でなければならない


余談ですが、系とは「既知の事実からただちに正しいとわかる主張」のことらしいです。

ここで、abがともに偶数である場合を考えると、偶数の2乗の和なので、当然c^ 2も偶数です。このときcも偶数になります。
つまり、abがともに偶数なら3辺とも偶数になるのです。
全部偶数ですね。つまり2で割ることができます。割れるものは割っておきたいですよね(NPCの家の壺とか)。

2に限らず、ピタゴラス数が互いに素でないとき、それらを最大公約数で割ってもピタゴラス数になります。それなら一番簡単な数の組が好ましいです。
そのような、互いに素であるピタゴラス数を原始ピタゴラスと言います。定数倍の違いを除けば、全てのピタゴラス数はどれかの原始ピタゴラス数と同一視できるわけです。
このことによって、本質的には原始ピタゴラス数だけ考えれば良い場合が多いです(何を本質と見るかは考える対象によって違いますが)。

このように最大公約数で割って原始ピタゴラス数に変換すると、a,b,cのうち少なくとも1つは奇数になります(全て偶数なら2で割ることができるため)。そして上の議論からabが同時に偶数であればcも偶数になるため、abのどちらか一方は奇数になります。
更に系から、もう一方が偶数になることがわかります。
以上のことから、abは奇数と偶数のペアに限定され、よってcは奇数に決定されます。
つまり、原始ピタゴラス数のうち、abは奇数と偶数(どちらが奇数でどちらが偶数でも良い)、cは奇数であることが言えるのです。

他にも、ピタゴラス数を辺の長さとして持つ直角三角形の面積は偶数であるとか、少なくとも1つは5の倍数であるとか、ピタゴラス数については色々な事実が知られているらしいですが、今回の話には不要なので省きました。


2. 前準備

ここまででピタゴラス数一般に関する前提知識の確認は終わりで、次からは本題の証明に必要な話です。道具として使うだけなので理解する必要はありません(ぼくも理解していません)。おおらかにいきましょう。

4で割って1あまる自然数は、非負整数nを用いて4n+1と表せます。これはフェルマーの二平方和定理によって、2つの整数の2乗の和(二平方和)として表せることが保証されています。

フェルマーの二平方和定理 4n+1 (nは非負整数)は2つの整数\alpha\betaによって
4n+1=\alpha^ 2+\beta^ 2
と表すことができる


この二平方和への分解は、複素数の世界で考えることで因数分解と見なせます。

ガウス整数による因数分解 \alpha^ 2+\beta^ 2=(\alpha+\betai)(\alpha-\betai)


右辺の複素数は実部も虚部も整数です。このような複素数ガウス整数ガウス整数全体の集合(にたし算とかけ算をいい感じに定義したもの)をガウス整数環と言います。環はたし算とかけ算がいい感じになっている集合です。詳しくは触れません。
系の直前に書いたc^ 2≡0 or 1から、二平方和に分解できる、つまりガウス整数によって因数分解できる素数4n+1素数だけであることがわかります(2は例外で、2=(1+i)(1-i)のように因数分解できます)。この意味において、4n+3素数のことをガウス素数と言います。ガウス整数環上でも素数であるからです。
ガウス整数環の特徴として、素因数分解が一通りしかないことがあります(一意分解整域)。フェルマーの二平方和定理と合わせて考えることで、4n+1型の自然数の二平方和分解が一通りしか存在しないことが言えます。

また、二平方和同士の積も二平方和になることが知られています。

ブラーマグプタの二平方恒等式 (w^ 2+x^ 2)(y^ 2+z^ 2)=(wy-xz)^ 2+(wz+xy)^ 2=(wy+xz)^ 2+(wz-xy)^ 2


これで本題の斜辺を共有するピタゴラス数たちを考える準備が整いました。


3. 斜辺を共有する複数のピタゴラス

いよいよ本題に入ります。

斜辺を共有するピタゴラス数とは、ピタゴラスの定理を満たす自然数の組(a_1,b_1,c)(a_2,b_2,c)で、a_1\neq a_2, b_1\neq b_2であるような組たちのことです。共有すると言うからには2つ以上あります。
そもそもそんな組があるのかどうか疑問かもしれませんが、実際に存在します。
例えば、65がそのような斜辺の例です。計算してみましょう。

16^ 2+63^ 2=256+3969=4225=65^ 2
25^ 2+60^ 2=625+3600=4225=65^ 2
33^ 2+56^ 2=1089+3136=4225=65^ 2
39^ 2+52^ 2=1521+2704=4225=65^ 2

確かに複数のピタゴラス数が斜辺として65を共有しています。
もう一例あげてみます。

716^ 2+32037^ 2=512656+1026369369=1026882025=32045^ 2
2277^ 2+31964^ 2=5184729+1021697296=1026882025=32045^ 2
6764^ 2+31323^ 2=45751696+981130329=1026882025=32045^ 2
8283^ 2+30956^ 2=68608089+958273936=1026882025=32045^ 2
15916^ 2+27813^ 2=253319056+773562969=1026882025=32045^ 2
17253^ 2+27004^ 2=297666009+729216016=1026882025=32045^ 2
21093^ 2+24124^ 2=444914649+581967376=1026882025=32045^ 2
22244^ 2+23067^ 2=494795536+532086489=1026882025=32045^ 2

目がチカチカしますね。
驚くべきことに、この8通りの分解は全て原始ピタゴラス数になっています。

ここで2つの疑問が生じます。
cがどのような条件を満たせばc^ 2が複数通りの二平方和分解を持つのか?
c^ 2は何通りの二平方和分解を持つのか?

これを調べるために、cを与えれば自動でピタゴラス数を網羅してくれるプログラムを書いて計算させてみました(上の計算は全てプログラムに投げました)。
すると、原始ピタゴラス数に限って言えば、二平方和分解の個数は2の非負整数乗っぽいぞ、ということが見えてきました。
この"2のべき乗"という構造は何に由来するのでしょうか?


4. 強い制限下での分解

c^ 24n+1型の自然数です。では、cはどうでしょうか?
cは奇数なので、4で割ったあまりは1 or 3です。このどちらの場合でも2乗すれば4n+1型になりますが、まずはc≡1の場合を考えます

フェルマーの二平方和定理により、4n+1自然数は二平方和分解が可能です。素数自然数に含まれるので、当然4n+1素数も二平方和分解できます。
ここでブラーマグプタの二平方恒等式を思い出してください。二平方和の積は二平方和になるというアレです。
この恒等式によって、c4n+1素数の積であれば、二平方和分解可能であることが保証されます。
よって、ここではまずcの素因数が全て4n+1素数であるという強い制限の下で斜辺を共有する原始ピタゴラス数の個数を考えていきます。

最初に、cの素因数が重複のない4n+1素数のみである場合です。

cの素因数が重複のない4n+1型素数の場合の分解の個数

ci番目の素因数をp_iとすると、\displaystyle{c=\prod_{i=1}^{N}p_i}となり、
\displaystyle{P(N-1)=\prod_{i=1}^{N-1}p_i}とおけばc=P(N-1)\times p_Nとなる。
p_N=\alpha^ 2+\beta^ 2、複数あるかもしれない分解のうちある一つをとってP(N-1)=A^ 2+B^ 2とすると、
c^ 2=(\alpha+\beta i)^ 2 (\alpha-\beta i)^ 2 (A+Bi)^ 2 (A-Bi)^ 2である。
(\alpha+\beta i)^ 2=r, (\alpha-\beta i)^ 2=\bar r,  (A+Bi)^ 2=R, (A-Bi)^ 2=\bar Rとすると、ここでの目標はc^ 2を互いに素な自然数による二平方和に分解することなので、\sqrt r\sqrt{\bar r}\sqrt R\sqrt{\bar R}の積を作るのは避けたい(これをしてしまうと、せっかく分解したp_NP(N-1)が再生してしまいます)。よって考えるべきはrR \times \bar r\bar Rr\bar R\times\bar r Rの2つ。


1) rR\times \bar r\bar R
rR=\{(\alpha^ 2-\beta^ 2)+2\alpha\beta i\} \{(A^ 2-B^ 2)+2AB i\}
=\{(\alpha^ 2-\beta^ 2)(A^ 2-B^ 2)-4\alpha\beta AB\}+\{2\alpha\beta(A^ 2-B^ 2)+2AB(\alpha^ 2-\beta^ 2)\}i
\bar r\bar R=\{(\alpha^ 2-\beta^ 2)-2\alpha\beta i\}\{(A^ 2-B^ 2)-2AB i\}
=\{(\alpha^ 2-\beta^ 2)(A^ 2-B^ 2)-4\alpha\beta AB\}-\{2\alpha\beta(A^ 2-B^ 2)+2AB(\alpha^ 2-\beta^ 2)\}i
ここで\gamma_1=(\alpha^ 2-\beta^ 2)(A^ 2-B^ 2)-4\alpha\beta AB, \delta_1=2\{\alpha\beta(A^ 2-B^ 2)+AB(\alpha^ 2-\beta^ 2)\}とすると、
rR=\gamma_1+\delta_1i, \bar r\bar R=\gamma_1-\delta_1i なので、c^ 2=\gamma_1^ 2+\delta_1^ 2

2) r\bar R\times \bar r R
r\bar R=\{(\alpha^ 2-\beta^ 2)+2\alpha\beta i\}\{(A^ 2-B^ 2)-2AB i\}
=\{(\alpha^ 2-\beta^ 2)(A^ 2-B^ 2)+4\alpha\beta AB\}+\{2\alpha\beta(A^ 2-B^ 2)-2AB(\alpha^ 2-\beta^ 2)\}i
\bar r R=\{(\alpha^ 2-\beta^ 2)-2\alpha\beta i\}\{(A^ 2-B^ 2)+2AB i\}
=\{(\alpha^ 2-\beta^ 2)(A^ 2-B^ 2)+4\alpha\beta AB\}-\{2\alpha\beta(A^ 2-B^ 2)-2AB(\alpha^ 2-\beta^ 2)\}i
ここで\gamma_2=(\alpha^ 2-\beta^ 2)(A^ 2-B^ 2)+4\alpha\beta AB, \delta_2=2\{\alpha\beta(A^ 2-B^ 2)-AB(\alpha^ 2-\beta^ 2)\}とすると、
r\bar R=\gamma_2+\delta_2i, \bar r R=\gamma_2-\delta_2i なので、c^ 2=\gamma_2^ 2+\delta_2^ 2


上の2通りの変形が可能であるが、これらはいずれも(\gamma_1,\delta_1,c)(\gamma_2,\delta_2,c)が原始ピタゴラス数であるための必要条件でしかないので、次にこれらが十分条件であることを示す。
\gamma_1, \delta_1はそれぞれ
\gamma_1=(\alpha^ 2+\beta^ 2)(A^ 2+B^ 2)-2(\alpha B+A\beta)^ 2=p_N P(N-1)-2(\alpha B+A\beta)^ 2,
\delta_1=2(\alpha A-\beta B)(\alpha B+A\beta)と変形できる。
\gamma_1cが互いに素でないと仮定すると、p_N P(N-1)=cなので\alpha B+A\betacと互いに素でない。このとき\alpha B+A\betacの素因数の倍数なので、その素因数をp_jmを整数として
\alpha B+A\beta=m p_jとなる。また、\alpha A-\beta B=Mとすると、 \gamma_1^ 2+\delta_1^ 2=\{p_N P(N-1)-2(m p_j)^ 2\}{}^ 2+4M^ 2 (m p_j)^ 2
={p_N}^ 2 {P(N-1)}^ 2-4m^ 2 p_j^ 2 p_N P(N-1)+4m^ 4 p_j^ 4+4M^ 2 m^ 2 p_j^ 2=c^ 2={p_N}^ 2 {P(N-1)}^ 2
\Leftrightarrow M^ 2=p_N P(N-1)-m^ 2 {p_j}^ 2
p_N P(N-1)p_jの倍数であってかつ{p_j}^ 2の倍数でないので、p_N P(N-1)=K p_j(K\perp p_j)とすることができる。このときMp_jの倍数のはずなので、M=\mu p_jとできる。
\mu^ 2 {p_j}^ 2=K p_j-m^ 2 {p_j}^ 2
\Leftrightarrow K=(\mu^ 2+m^ 2)p_j
これはK\perp p_jに矛盾する。
よって\alpha B+A\betap_jが互いに素なので、\gamma_1cも互いに素である。
ところで、\delta_1^ 2=c^ 2-\gamma_1^ 2であるが、右辺はp_jの倍数でないので、\delta_1p_jの倍数でない。
また、\gamma_1\delta_1の最大公約数をdとすると、\gamma_1^ 2+\delta_1^ 2=c^ 2d^ 2の倍数になるのでcdの倍数になるが、cは素因数としてp_jしかもたず、これがdの約数になることは、d=1の場合を除いて\gamma_1\perp cに矛盾する。
よってd=1。これは(\gamma_1, \delta_1, c)が互いに素であることを意味する。
同様の議論により(\gamma_2, \delta_2, c)も互いに素である。

以上のことから、cの分解の個数をD(c)とするとD(c)=2D(P(N-1))なので、P(N-1)以降に上記の議論を繰り返し適用することで、
D(c)=2D(P(N-1))=2^ 2 D(P(N-2))=\cdots=2^{N-1}D(P(1)))=2^{N-1}
よってcの素因数がN個の重複のない4n+1素数の場合、その二平方和分解は少なくとも2^ {N-1}個あることがわかる。

(証明終わり)


これで、斜辺を共有するピタゴラス数の個数について一定の評価ができました。

見どころ(?)は\gamma_1\delta_1から共通の構造である\alpha B+A\betaを取り出したところですね。
式変形は上手くやれば上手くいくのです。

さて、証明の最後の部分で分解の個数について触れましたが、少なくともと控えめな主張になっていますね。
これは2のべき乗構造を生み出す根幹の部分に理由があります。
証明の中で、cガウス整数の範囲でr, \bar r, R, \bar Rの4つの因数に分解しましたが、それらの再構成の方法は、なんとブラーマグプタの二平方恒等式に従っています。
上の証明で行った再構成がブラーマグプタの二平方恒等式によることは、以下の式変形(というより文字で置き換えることによるエイリアス)を見ることで様子がはっきりします。

s=\alpha^ 2-\beta^ 2, t=2\alpha\beta, S=A^ 2-B^ 2, T=2ABとすると、
{p_k}^ 2=(\alpha^ 2+\beta^ 2)^ 2=s^ 2+t^ 2, P^ 2=(A^ 2+B^ 2)^ 2=S^ 2+T^ 2なので、
c^ 2={p_k}^ 2 P^ 2=(s^ 2+t^ 2)(S^ 2+T^ 2)
これは二平方和の積なので、ブラーマグプタの二平方恒等式によって次のような2通りの二平方和に分解できる。
1. (sS-tT)^ 2+(sT+St)^ 2
2. (sS+tT)^ 2+(sT-St)^ 2

上の証明の中に出てくる\gamma_1, \delta_1, \gamma_2, \delta_2は全てこの形をしています。確認してみてください。

確かにこれで2通りの分解はできていますが、果たしてこれ以外の分解・再構成は存在しないのでしょうか?
ここにおいて、cの分解と再構成の方法がガウス整数の範囲での因数分解とブラーマグプタの二平方恒等式によるもの以外に存在しないことを証明していないので、少なくともという弱い主張に留まっているのです。

実は、他の分解・再構成の方法があるかないかは、著者にはまだわかっていません。
上で触れた自動でピタゴラス数を網羅してくれるプログラムを100回ほど回した限りでは、強い制限下における分解の個数は全て2のべき乗(2^ 0=1を含む)でした。なので楽観的に、上記以外の方法はないだろうと予想しています。

次に、cの素因数である4n+1素数の指数が1以外も許される場合、つまり素因数に重複がある場合です。

cの素因数が重複のある4n+1型素数の場合の分解の個数

p_ici番目の素因数、その指数をs_iとすると、

\displaystyle{c=\prod_{i=1}^{N}p_i^ {s_i}}

となる。

\displaystyle{P=\prod_{i\neq k}^{N}p_i^ {s_i}}

とすると、c={p_k}^ {s_k} Pとなる。
p_k=\alpha^ 2+\beta^ 2P=A^ 2+B^ 2とすると、
c^ 2=(\alpha+\beta i)^ {2s_k} (\alpha-\beta i)^ {2s_k} (A+Bi)^ 2 (A-Bi)^ 2である。
(\alpha+\beta i)^ 2=r, (\alpha-\beta i)^ 2=\bar r,  (A+Bi)^ 2=R, (A-Bi)^ 2=\bar Rとすると、ここでの目標はc^ 2を互いに素な自然数による二平方和に分解することなので、やはり\sqrt r\sqrt{\bar r}\sqrt R\sqrt{\bar R}の積を作るのは避けたい。
そのためには、r\bar rを分離しなければならず、それを実現できるのはr^ {s_k} R\times ({\bar r})^ {s_k} \bar Rr^ {s_k} \bar R\times ({\bar r})^ {s_k} Rの2通りしかない。
これは重複のない場合と同じなので、分解の個数も同じになる。
つまり、cの素因数である4n+1素数にどのような重複があっても、分解の個数は素因数の指数s_kによらないことがわかった。

(証明終わり)


cを構成する素因数が4n+1素数のみであれば、その重複に関係無く、素因数の種類の数のみによって分解の個数が決まるということです。指数の変動に対して安定であると言えます。

今までは原始ピタゴラス数(始解と呼ぶことにします)にしか注目してきませんでしたが、非原始解の個数は指数が大きいほど増えていくようです。非原始解の個数を表す式はまだありません。読者への演習問題としても良いかもしれませんね。


5. 素因数の拡張

前節で、cの素因数が4n+1素数のみである場合を考えました。4n+3素数は二平方和に分解できないガウス素数で、扱いにくいからです。
例えば、c4n+3素数の場合、cピタゴラス数になりません。

cが4n+3型素数でないことの証明

c4n+3素数とする。
a^ 2+b^ 2=c^ 2が成り立つと仮定すると、
b^ 2=c^ 2-a^ 2=(c-a)(c+a)となる。3つの自然数\alpha, \beta,g(ただし\alpha\betaは互いに素)によってb=\alpha\beta gとすると、
b^ 2=\alpha^ 2 \beta^ 2 g^ 2=\alpha^ 2 g \times \beta^ 2 gなので、c-a=\alpha^ 2 g, c+a=\beta^ 2 gとしても良い(符号をこのように設定しても一般性を失わない)。
※ここでgc-ac+aの最大公約数を意識しています。
すると、a=c-\alpha^ 2 g=\beta^ 2 g-cなので、c=\frac{g}{2}(\alpha^ 2+\beta^ 2)となる。
l,m,Nを整数として、\alpha\betaの偶奇について考えると、
1) \alpha=2lかつ\beta=2mのとき:
 \alpha\perp\betaに反するので矛盾。
2) \alpha=2lかつ\beta=2m-1のとき:
 c=\frac{g}{2}(4l^ 2+4m^ 2-4m+1)=\frac{g}{2}(4N+1)と表すことができ、4N+1が奇数、c素数であることからg=2
 そのとき4n+3=4N+1となるので矛盾。
 \alpha=2l-1かつ\beta=2mのときも同様に矛盾する。
3) \alpha=2l-1かつ\beta=2m-1のとき:
 c=\frac{g}{2}(4l^ 2-4l+1+4m^ 2-4m+1)=g(2l^ 2-2l+2m^ 2-2m+1)
  =g\{2l(l-1)+2m(m-1)+1\}で、連続する2整数の積は偶数になるので、
 c=g(4l'+4m'+1)=g(4N+1)と表すことができ、4N+1が奇数、c素数であることからg=1
 そのとき4n+3=4N+1となるので矛盾。
以上の3パターン全てで矛盾するので、c4n+3素数ではない。

(証明終わり)


上の結果は、たとえc^ 24n+1型整数であってもc4n+3素数であれば二平方和分解ができないことを主張しています。これはフェルマーの二平方和定理に矛盾しているように見えますが、\alpha=0\beta=cの場合があるので矛盾していません。上の証明ではa,b自然数に限定しているので、0が使えなくなっているのです(今更ですが自然数0を含めないことにしています)。

上の結果を使うと、cの素因数に4n+3素数が含まれる場合、cは原始解を持たないことがわかります。

p_i4n+1素数s_ip_iの指数、q_i4n+3素数t_iq_iの指数として、c

\displaystyle{c=(\prod_{i=1}^{N}p_i^ {s_i})(\prod_{i=1}^{M}q_i^ {t_i})}

とします。
これまでと同様に個々の素数を二平方和に分解してからブラーマグプタの二平方恒等式に従って再構成しようとすると、{q_i}^ {t_i}が二平方和に分解できないので、c^ 2=\gamma^ 2+\delta^ 2のように分解してから係数のようにかけるしかなく、これだと(\gamma,\delta,c)が互いに素にならないので、原始解を作ることができません。
この場合でも非原始解は存在しますが、N個の4n+1素数によって作られた2^ {N-1}個の分解に4n+3素数を全てかけた形のものしか得られないため、分解の個数は変わりません。

また当然ですが、二平方和を4で割ったあまりは01なので、cがこのどちらでもない場合はピタゴラス数を構成しません。


6. まとめ

以上の結果をまとめると、次のようになります。

\displaystyle{c=(\prod_{i=1}^{N}p_i^ {s_i})(\prod_{i=1}^{M}q_i^ {t_i})}

について、
1) t_i=0の場合:
 1つのcに対して原始ピタゴラス数は少なくとも2^ {N-1}個存在する
 非原始解を含めるともっとたくさん存在すると予想される
2) s_i=0の場合:
 ピタゴラス数にならない
3) t_iが非負偶数のとき:
 原始解を持たないが、非原始解を少なくとも2^ {N-1}個持つ

斜辺を共有するピタゴラス数の個数が(もし分解・再構成の方法が他に無ければ)2のべき乗という非常に特殊な値を取るのは面白いと思いました。


A. おまけ/ピタゴラス数の和差が成すピタゴラス数たち

上の議論を考えているときに訪れた寄り道的な話題を紹介します。

cが複数通りの二平方和に分解されるとき、ブラーマグプタの二平方恒等式エイリアスによって、次のように整理されます。

c=pP(ただしp,P4n+1型の自然数)のとき、p=\alpha^ 2+\beta^ 2, P=A^ 2+B^ 2と表すことができる。
ここでs=\alpha^ 2-\beta^ 2, t=2\alpha\beta, S=A^ 2-B^ 2, T=2ABとすると、
c^ 2=(sS-tT)^ 2+(sT+St)^ 2=(sS+tT)^ 2+(sT-St)^ 2となる。
s, Sが奇数、t, Tが偶数なので、sS-tT, sS+tTは奇数、sT+St, sT-Stは偶数となる。

ここで新たに
(sS-tT)+(sS-tT)=2sS=\sigma_1(sT+St)+(sT-St)=2sT=\tau_1
(sS-tT)-(sS-tT)=2tT=\sigma_2(sT+St)-(sT-St)=2St=\tau_2
つまりcと共に原始解を構成する2数のうち偶奇を揃えて足したり引いたりした数を考えると、
\sigma_1^ 2+\tau_1^ 2=4s^ 2S^ 2+4s^ 2T^ 2
=4s^ 2(S^ 2+T^ 2)=4s^ 2\{(A^ 2-B^ 2)^ 2+4A^ 2B^ 2\}
=4s^ 2(A^ 2+B^ 2)^ 2=(2sP)^ 2
\sigma_2^ 2+\tau_2^ 2=4t^ 2T^ 2+4S^ 2t^ 2
=4t^ 2(S^ 2+T^ 2)=4t^ 2\{(A^ 2-B^ 2)^ 2+4A^ 2B^ 2\}
=4t^ 2(A^ 2+B^ 2)^ 2=(2tP)^ 2
となり、これらもピタゴラス数になります。どちらも原始ピタゴラス数のP倍なので、Pで割ることができます。
それらのうちPで割って奇数になるもの同士、Pで割って偶数になるもの同士の和や差を考えると、これまたピタゴラス数になっています。
以下、この操作をどこまで続けても、生成される数は全てピタゴラス数です。





追記(2022/02/06)
続きを書きました。こちらもどうぞ↓↓↓

percentage011.hatenablog.com







参考資料

ガウス整数 - Wikipedia
ブラーマグプタの二平方恒等式 - Wikipedia
一意分解環 - Wikipedia